episode19 「読者の質問に答えて」・・・(③「千葉ロッテマリーンズの改革」ってどうやったの?)


第19回「読者の質問に答えて」・・・(③「千葉ロッテマリーンズの改革」ってどうやったの?)

本コラムについては、前々回から読者からの質問に答えるという形式で筆を進めていますが、拙著「実践 スポーツビジネスマネジメント~劇的に収益力を高めるターンアラウンドモデル」(日本経済新聞出版社)に書いてあるのはわかるが、本を購入してちゃんと読むのではなく、手っ取り早く「要するに、どうやってプロ野球球団の球団改革をしたのか?」知りたい、という質問が多いようです。以下、プロ野球球団の改革の基本理念を2つ、箇条書きにしておきましょう。

  1. プロスポーツクラブの運営を、1試合ごとの「興行」と考えるのではなく、継続的にクラブという会社の経営(マネジメント)=ビジネスと捉え、経営(学)のナレッジを活用する。<マネジメント発想>
  2. 試合で勝って優勝すること(だけ)が目的であり、勝てばすべてが解決するという旧来の考えを捨て、勝負だけにこだわらず勝っても負けても楽しいスタジアム観戦を実現する。<エンターテインメントとしてのスポーツビジネス>

 

  1. を実現するためには、普通の会社経営と同じようにきちんとした組織体制を整え、ビジネスを展開しながら上を挙げ利益を増やし、以てチームを強化していくことが必要になります。
  2. を実現するためには、

(ⅰ)スタジアムとチームの運営を一体化し、アトラクションを増やし、アメニティを向上させて観戦者が何度も来たいと思えるような魅力的な空間を作ること

(ⅱ)地域の誇り、地域に愛され地域活性化に貢献できるとなるような活動を推進し、地域のファンに支えられたクラブに脱皮すること

(ⅲ)CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、コンテンツビジネス(放映権、スポンサー協賛)など、マーケティング的手法を導入すること

(ⅳ)魅力的なスタジアム、魅力的なゲームを行い、マーケティングを推進するためにスタジアムへの設備投資を実施すること

などが重要です。

千葉ロッテマリーンズの場合は、2005年1月から始まった上記の改革のために、何十人ものスポーツ好きで「スポーツ産業を盛り上げたい」と考える志のある、ビジネス界のプロフェッショナルが改革に参画し、

・売上で言えば改革前の20億円を4倍の80億円に

・入場者数の大幅拡大

・チームの存在が千葉市、千葉県の「誇り」に

・結果として、2005年の日本一を始め、万年ビリ候補の球団が優勝を争えるチームに

したのでした。

僕は、マリーンズ改革の最初の1年半しかいなかったのですが、改革のフレームワークの策定や、チームとの一体化を果たすためのスタジアム運営権(「指定管理者」というステイタスです)の獲得、設備投資を行うための親会社との交渉などを行いました。

しかし、本当のところは、改革を実際に推進したダイナモは、野球界を世界基準に引き上げるための「侍ジャパン」プロジェクトを考案し、実際に推進している荒木重雄さんを始めとする同僚たちであって、僕の最大の「貢献」は、拙著の2009年の出版によって、マリーンズ改革のナレッジを世間に知らしめたことではないかと思っています。

これまで野球だけではなく日本中のスポーツチームの方々が拙著を参考にして、チーム運営の改革を図ってくれていることです。つまり「語り部」としての貢献ですね。

例えば、何十億円もの赤字に喘いでチーム強化費もままならなかったDeNAベイスターズが今年度黒字に転換、チーム成績の方も初めてクライマックス・シリーズに参戦できるという華々しい結果となりましたが、数年前DeNAがベイスターズを買収するときに拙著に書かれたマリーンズ改革の内容を同チームの経営トップ、親会社の経営トップにレクチャーしたことが思い出されます。もちろん彼らは様々な情報、ナレッジの中で自らの経営方針を立て、実行したということなのですが、同チームが実行した「エンターテインメント・ビジネス」「スタジアムとの一体経営(買収してしまいました)」はマリーンズ改革のエッセンスを参考にしたのかもしれません。

逆に言えば、まだ拙著が広く読まれているということは、日本のプロスポーツ界が未だ西欧のようなスポーツ産業化していない証とも言えます。

安倍政権は、2020年の東京オリンピック/パラリンピックを目がけて、それまでにGDPを500兆円から600兆円に100兆円アップさせることを標榜しています。そして、その100兆円の内、10兆円程度をスポーツ産業の拡大に期待するとしています。

2011年のスポーツ基本法の発布(何と、それまで日本では法律上「スポーツ産業」とか「スポーツビジネス」「プロスポーツ」というものは国の施策の範囲外だったのです!)、2015年のスポーツ庁の創設など、政府としては着々と「形式」は整えつつあります。

但し、東京オリパラの準備における現在の迷走など、スポーツあるいはスポーツ産業巡る状況は「課題多し」と言わざるを得ません。

「スポーツマネジメント」を大学教員としての研究分野の一つとしている者としては、こうした話については当コラムを10回書いても書ききれるものではありません。

しかし、これだけは最後に書いておきましょう。

スポーツという「ソフト」「コンテンツ」には人々の生きる活力を高める素晴らしい価値、力があります。最近は「社会課題の解決手段」(例えば、経済の活性化、地域の活性化、人々の幸福感の増進、教育のレベルアップなど)としても「スポーツ」が注目されています(この点については、最近パネラーを務めたパネルhttp://www.ustream.tv/recorded/92396136 でも発言しています)。

本コラムの読者の方にも、スポーツという万人が「素晴らしい」と感じる稀有なものについて改めて考える上で、今回コラムが参考になれば、と思います。