episode 22 深谷市のプラン


第22回「深谷市のプラン」

深谷市にある大学に奉職してからまだ2年にしかならず、僕が良く知っている大学と最寄りの高崎線岡部駅を結ぶエリアは、138.37km2と比較的広い自然体から見ればほんの微小なエリアでしかないと言えるでしょう。したがって深谷市については、自分が見たり感じたりしていることではなく、有識者会議に出ていて見知った、あくまでも頭でっかちな理屈ですが、地方創生は地方公務員を志す方々にも興味があることだと思うので書いておきます。

昨年の有識者会議で、「産業振興」のベースとなる同市の産業構造の分析を議論していたときのことです。平成22年度の国勢調査によると深谷市の第1次産業就業者の割合は8.8%と全国平均の4.2%に比べて相対的に高いことへの言及があった際、ある委員から「第1次産業から2次産業へ、そして3次へと日本経済の産業構造が変化していったのに対し深谷市は依然遅れている・・・」と言ったコメントあったのです。経営の専門家としてはこの発言は少し修正が必要かと思い「経営という観点からは、『苦手なことを克服しようとするよりも、得意なことを伸ばすこと』を考えた方が良い。埼玉県は首都圏に位置し、東京という大消費地域に隣接している優位性を生かした方策を考えてはどうか。実際の成功例は少ないが1次(作る)+2次(加工する)+3次(自分で販売する)の『6次産業化』の必要性が叫ばれており、ここに注目すべきではないか」と発言しました。

ところで深谷市は現在「ふるさと納税」に力を入れています。ふるさと納税に関しては、返納品の高額化が問題になっており(折角ふるさと納税で税金が増えても、返納品が高ければネットの納税額は小さくなり、日本全体で言えば、地方税総額の減少=納税者の利得という形に終わります)、企業努力をしている地方が納税額を増やし、努力をしない地方が納税額を減らすことによって競争原理を働かせるという本来の目的から逸脱して、ふるさと納税の表面的な(ネットではなくグロスの)納税額競争のための返納品高額化という「手段の目的化」ではないかと、個人的には批判的に見ていました。そこでふるさと納税の担当者に「ふるさと納税を増やす目的は何か?」と尋ねたとき、深谷市の担当者はその明確な意図をきちんと論理的に説明してくれました。

ふるさと納税の返納品として地域の特産品をフィーチャーした商品をたくさん開発して切磋琢磨させる、

つまりふるさと納税を呼び水として「地域の特産品」、それも日本全国の返納品との競争の中で、「売れる」商品を作っていくということなのです。深谷と言えば、収穫量全国1位の「深谷ねぎ」が有名ですが、それ以外にも肉や、とうもろこし、ブロッコリーなどの野菜、そしてユリやコスモスなどの花も有名なのです。

また深谷市が今推進しているのは、花園地区のアウトレットパークの建設です。アウトレット自体は、近隣との客の取り合いが激化しており、それ単独では成功するかは良くわかりませんが、少なくとも「集客」という意味では極めて有効なツールです。この花園アウトレットパークには、ナショナルブランドの食品メーカーである「キューピー」が進出することが決まっています。その他農業に新しい風を吹かせている農業法人との提携なども行い、深谷市の戦略のベースとなる部品(ネタ)は随分揃ってきた印象があります。

僕が有識者会議で主張した6次産業についても、深谷市の「まち・ひと・しごと創成総合戦略」に採り入れられ、現在は実行段階となっています。農業へのフォーカス+ふるさと納税+アウトレットパーク の先にある「新しい時代の農業振興」「6次産業化」は本当に楽しみですね。興味がある方は、深谷市のHPの「市政情報」のところを覗いてみて下さい。http://www.city.fukaya.saitama.jp/shisei/keikakushisakuchosa/index.html

今後の社会を考えるときに、今旬の技術である「IOT」(全てのものがインターネット繋がる)と「AI」(人工知能)のことは外せません。農業の世界でも、農地にセンサーを付けまくって、作育状況をモニターしながら、人工知能が水をやったり、ロボットで収穫したり・・・これまで打ち捨てられた印象のあった農業の領域でも、新しいイノベーションが始まりつつあるのです。

IOTやAIのバシバシ活用する時代は、まだほんの少し先でしょうが、上記の戦略を採り入れて地域を変えようと、本気で推進しようとしている深谷市の職員の方々は頼もしく見えます。

深谷市の職員の方々を見ていると、「公務員はお役所仕事」的な偏見は過去のものになりつつあるようです。もちろん日本中の公務員の仕事ぶりがどうかを知ることはできませんが、少なくとも志のある若い人が自分の力を発揮できる余地は沢山あるように思えます。

次回が、この連載の最後の回にする予定です。色々書いてきましたが、最後の回は、「若い人へのメッセージ」みたいなことにしたいと考えています。